Scientists

准教授

小園 晴生こぞの はるお

生命情報システム部門
分子機能生物学

研究テーマ

  • タンパク質の“ゆらぎ”と機能発現
  • T細胞の抗原認識機構
  • MHCによる抗原提示
  • 自己免疫病の発症機構
  • 多様性からの生命システム構成

経歴

1982年九州大学理学部卒。1988年大阪大学理学部博士課程終了後、ワシントン大学(St.Louis,MO)、およびNational Jewish Medical and Research Center(Denver,CO)に留学。1996年より本学生命科学研究所生命情報科学研究部門助教授。

生命現象は多様であり、かつ複雑化していく、免疫系もしかりである。生命現象に普遍性はあるのだろうか。我々は免疫系の中の受容体とリガンドの相互作用という事象に注目している。免疫系は多細胞系であるが故に細胞間の連絡、通信が不可欠である。それを担うのは無数の受容体であり、そのリガンド達であるからだ。それらの受容体とリガンドは主にタンパク質でできている。それらの分子はX線結晶解析の図にあるような形を常に取っているわけではない。それらの分子は相互作用において様々に試行錯誤を繰り返し、結合、触媒を成し遂げているはずである。これはタンパク質構造に“ゆらぎ”が存在することにより可能になる。私はこの“ゆらぎ”の積極的な役割と機能の関係を明らかにしたい。そのために、生理学的、生化学的方法に加え物理化学的解析を行うことで分子機能の普遍性を探っている。

MHC分子による抗原提示プロセスの研究

MHC分子の役割は細胞な抗原を細胞表面に持ってきてT細胞に提示することである。このことを抗原提示という。抗原提示は複数のシャペロンタンパク質が関わる複雑な過程である。MHC分子は抗原あるいは自己タンパク質由来のペプチドと常に会合していなければその構造を維持できない。ペプチドがないところ、つまり生合成の初期段階では様々なシャペロンに結合することでその構造を維持している。MHC classⅡ分子は酸性のエンドソームに運ばれ、生合成時に結合したシャペロンであるインバリアント鎖由来のCLIPというペプチドとエンドサイトーシスによって取り込まれた抗原タンパク質由来のペプチドを交換する。この交換機構の解明を行おうとしている。ここではDMというシャペロンが反応に介在することが解っているが、DM非存在下でもこの反応は進む。そこに横たわる機構はタンパク質が積極的に分子運動を大きくして、交換を行うというものだ。この解析のため、熱力学的解析とX線1分子測定(Diffracted X-ray Tracking:DXT)を行っている。これらの解析の結果、MHC分子がその構造ゆらぎを積極的に機能発現のために利用するということが解りつつある。

糖尿病誘起性MHCの動的構造とTCRとの反応の研究

1型糖尿病は遺伝的要因と環境的 要因により起こる疾病である。遺伝的要因のうち最重要なものはMHC classⅡ分子である。ヒト、マウス、その他の動物で1型糖尿病を引き起こすMHCの構造は類似していて、それ以外のものと異なる。通常のMHCにおいてはβ-鎖の57番目がAspであるのに対しこれらのMHCでは別のアミノ酸に置換されている。このためα-鎖とβ-鎖の間の水素結合が他のMHCに比べ一本少ない。我々は、このことはMHCの構造を柔軟にしていると考えている。このMHCの柔軟性をまず解決すべくSPRによる相互作用解析とDXTによる解析を行い、それを証明しつつある。この柔軟性と胸腺での選択あるいは末梢での活性化の問題を、TCRとMHCの相互作用の質、および炎症反応抑制性のT-regや炎症反応昂進性Th17といった細胞の活性化のシグナル分子のバランスの問題として捉え研究をしている。

高親和性TCRの作製と応用

通常の免疫応答では上の項でも書いたように細胞内の異常を細胞外にMHCが表示し、それをT細胞が認識するという過程をとる。この認識は複数のTCRと補助レセプターであるCD4やCD8との協奏的認識である。故に親和性が低いが特異性が高いという免疫認識を成立させている。もう一方の免疫認識分子である抗体は抗原を直接捕える能力があり、その親和性は体細胞突然変異により上昇する。我々は人為的にTCRの親和性を向上させればTCRを抗体並みの容易さで使えると考えている。そのため酵母表面にTCRを発現させ、変異導入後、親和性の高いものを選ぶ系を構築している。将来的には、癌細胞やウイルス感染細胞を直接破壊する試薬となりうることを期待している。

タンパク質工学によるタンパク質発現系の構築

上記に述べてきた手法のうちで物理化学的解析に用いる試薬つまりタンパク質は、大量調製が必要となる。膜タンパク質の可溶化したものを作ることは一般的に非常に難しく、これに成功することが多くの実験で必須となる。それ故独自にタンパク質作製法を開発することが重要となる。我々は、タンパク質のフォールディングや分泌機構に配慮しつつ、昆虫細胞、酵母、大腸菌などで発現させるためのタンパク質自身の改変や新たなベクターの開発を行っている。

実績

論文
  1. Haruo Kozono, Yufuku Matsushita, Naoki Ogawa, Yuko Kozono, Toshihiro Miyabe, Hiroshi Sekiguchi, Kouhei Ichiyanagi, Noriaki Okimoto, Makoto Taiji, Osami Kanagawa, Yuji C Sasaki (2015) Single-Molecule Motions of MHC Class II Rely on Bound Peptides. Biophysical Journal 108, 350-359.
  2. Kazunobu Ohnuki, Yuri Watanabe, Yusuke Takahashi, Sakiko Kobayashi, Shiho Watanabe, Shuhei Ogawa, Motoko Kotani, Haruo Kozono, Kazunari Tanabe, Ryo Abe (2009) Antigen-specific CD4+ effector T cells: analysis of factors regulating clonal expansion and cytokine production: clonal expansion and cytokine production by CD4+ effector T cells. Biochem. Biophys. Res. Commun. 380, 742-747
  3. Hideaki Suzuki, Shinichi Sekine, Kosuke Kataoka, David W Pascual, Massimo Maddaloni, Ryoki Kobayashi, Keiko Fujihashi, Haruo Kozono, Jerry R McGhee, Kohtaro Fujihashi. (2008). Ovalbumin-protein sigma 1 M-cell targeting facilitates oral tolerance with reduction of antigen-specific CD4+ T cells. Gastroenterology 135, 917-925.
  4. Masaaki Hashiguchi, Hiroko Kobori, Patcharee Ritprajak, Yosuke Kamimura, Haruo Kozono, Miyuki Azuma (2008) Triggering receptor expressed on myeloid cell-like transcript 2 (TLT-2) is a counter-receptor for B7-H3 and enhances T cell responses. Proc. Natl. Acad. Sci. 105, 10495-10500
  5. Takuma Sagawa, Masayuki Oda, Hisayuki Morii, Hisao Takizawa, Haruo Kozono, Takachika Azuma (2005) Conformational changes in the antibody constant domains upon hapten-binding. Molecular immunology 42, 9-18
  6. Takeyuki Shimizu, Yuko Kozono, Haruo Kozono, Masayuki Oda, Takachika Azuma (2004) Affinity maturation of secreted IgM pentamers on B cells. International immunology 16, 675-684
  7. Keigo Saito, Masayuki Oda, Akinori Sarai, Takachika Azuma, Haruo Kozono (2004) Bound peptide-dependent thermal stability of major histocompatibility complex class II molecule I-Ek. Biochemistry 43, 10186-10191
  8. Pornpan Youngnak, Yuko Kozono, Haruo Kozono, Hideyuki Iwai, Noriko Otsuki, Hisayo Jin, Ken Omura, Hideo Yagita, Drew M Pardoll, Lieping Chen, Miyuki Azuma (2003) Differential binding properties of B7-H1 and B7-DC to programmed death-1. Biochem. Biophys. Res. Commun. 307, 672-677
  9. Saito, K., Sarai, A., Oda, M., Azuma, T., and Kozono, H. (2003). Thermodynamic analysis of the increased stability of major histocompatibility complex class II molecule I-Ek complexed with an antigenic peptide at an acidic pH. J Biol Chem 278, 14732-14738.
  10. Frances Crawford, Haruo Kozono, Janice White, Philippa Marrack, John Kappler. (1998). Detection of antigen-specific T cells with multivalent soluble class II MHC covalent peptide complexes. Immunity 8, 675-682.
  11. Haruo Kozono, David Parker, Janice White, Philippa Marrack, John Kappler (1995) Multiple binding sites for bacterial superantigens on soluble class II MHC molecules. Immunity 3,187-196
  12. Haruo Kozono, Janice White, Janice Clements, Philippa Marrack, John Kappler (1994) Production of soluble MHC class II proteins with covalently bound single peptides. Nature 369,151-154