Scientists

准教授

本村 泰隆もとむら やすたか

免疫アレルギー部門
アレルギー学・免疫病態学

研究テーマ

  • 2型免疫疾患の病態解明
  • アレルギー体質形成機序の解明、アレルギー予防法の開発
  • 免疫疾患に遷移する未病状態の包括的理解

経歴

2005年東京理科大学理工学部応用生物科学科卒業。2010年東京医科歯科大学にて博士号(理学)取得(久保允人教授)。2010年より東京理科大学ポスドク研究員(久保允人教授)。

2013年理化学研究所統合生命医科学研究センター特別研究員(小安重夫グループリーダー)、2014年同基礎科学特別研究員(茂呂和世チームリーダー)、2018年同研究員。2018年大阪大学大学院医学系研究科生体防御学准教授(茂呂和世教授)。2024年より本学生命医科学研究所准教授

 

当研究室では、‘なぜ病気になるのか’という疑問に対し答えを出すため、様々な疾患を対象に免疫学的解析を軸に研究を行っています。特に、アレルギー性疾患は、最も理解したい病態の一つと考えています。その理由は、2人に1人が何らかのアレルギーをもつほどにまで患者が増加し、国民病といわれるまでに深刻化しているからです。アレルギー病態メカニズムを理解し、その知見をもとに根治を実現するアレルギー治療の開発につなげたいと考えています。さらに、近年、私たちは、新規のリンパ球として見つかってきた自然リンパ球が、生体内の変化に応じてアレルギーになりやすい状態、いわゆる‘アレルギー体質’に寄与する可能性を見出しました。体質とは、病気になりやすい状態を意味しますが、概念があいまいであり、これまで研究の対象となり得ませんでした。しかし、‘体質’を理解し、解消することが可能であれば、アレルギーになりにくい身体にすることでアレルギーを発症前に食い止めることができると考えました。そこで、当研究室ではアレルギー体質を理解し、アレルギーの予防法の開発に取り組む研究にも挑戦しています。また、この考えは、アレルギー性疾患に限ったことではなく、様々な疾患においても応用が可能です。そこで、肺線維症などの臓器線維症、メタボリックシンドロームなどの代謝疾患、炎症性腸疾患など様々な疾患も研究対象とし、発症に至るまでの‘未病状態’を捉えることにより、それぞれの疾患の予防法を創出できると考えています。将来、多くの疾患が予防できる時代を目指し、研究に取り組んでいます。

2型免疫疾患の病態解明

2型サイトカインと呼ばれるIL-4、IL-5、IL-13は、寄生虫感染防御などの2型免疫応答を誘導する一方で、好酸球浸潤を伴う炎症(Type2炎症)を誘導し、アレルギー性疾患などの2型免疫応答を引き起こします。T細胞を中心として考えられてきたアレルギー性疾患ですが、2010年に新規のリンパ球として2型自然リンパ球(ILC2)が見出されたことによりその概念が大きく変わってきました。アレルゲン(Allergen)は、アレルギー(Allergy)を起こす抗原(Antigen)を意味する造語ですが、この言葉通り、アレルギー性疾患は、アレルゲン(抗原)が引き起こす疾患と長い間考えらえてきました。しかし、ILC2は、自然免疫を担うリンパ球であり、T細胞やB細胞とは異なり抗原を認識する受容体を持ちません。そのため、ILC2の活性化は、アレルゲンではなく、IL-33などの様々なサイトカイン、脂質、神経ペプチドなど生体内に内在する生理活性物質によって誘導され、活性化したILC2は、IL-5、IL-13を産生し、アレルギー反応を引き起こします。このように、ILC2はアレルゲンではなく、身体に生じた変化に応答することから、アレルギー病態の形成には、必ずしも抗原が必要ではないことがわかってきました。ILC2の発見は、これまで理解されてこなかった抗原に依存しないアレルギー病態の理解を一気に加速しました。具体的には、皮膚や目を引っ掻くことで病態が悪化するアトピー性皮膚炎やアレルギー性結膜炎、寒気に触れることで発症する蕁麻疹、ストレスによって増悪するアレルギー性疾患などが挙げられます。私たちは、これまでにILC2が、アレルギー性疾患だけでなく様々な2型免疫疾患の病態に関与することを明らかにしてきました(Immunity 2014、Nat. Commun 2023)。そこで、未だ根治を実現できていない多くの2型免疫疾患の病態を克服するため、それらの病態メカニズムを、ILC2を中心に明らかにしようと試みています。

アレルギー体質形成機序の解明、アレルギー予防法の開発

アレルギー体質や太りやすい体質という言葉は、日常的によく使われますが、なぜアレルギーになりやすいのか、なぜ太りやすいのか、その理由はわかっておらず、そもそも体質自体が何を意味するのか分かっていません。このように、体質という言葉は、あいまいな概念であることから、研究の対象となってきませんでした。しかしながら、コホート研究において乳幼児期のアトピー性皮膚炎を発症すると、その後の成長過程での食物アレルギーや花粉症、喘息などの発症率が高くなることが示されています。このように、アレルギー体質というものは確かに存在することから、私たちは、アレルギー体質を科学的に理解することを試みています。これまでに、ILC2が、脂質や神経ペプチドに応答してアレルギー感受性を亢進する可能性がわかってきました。そこで、ILC2を中心に免疫的、分子生物学的、細胞生物学的アプローチによりアレルギー体質形成に寄与する因子を同定し、アレルギー体質の有無を評価できる方法を開発するとともに、体質を標的とすることによりアレルギーの予防法を創出したいと考えています。アレルギー治療は、いかに症状を抑えるかに着目した治療法の開発が行われているのが現状ですが、将来、アレルギー予防を実現し、アレルギー性疾患を‘治療する疾患’から‘予防できる疾患’にパラダイムシフトを起こしたいと考えています。

免疫疾患に遷移する未病状態の包括的理解

メタボリックシンドロームなどの代謝疾患、肺線維症、癌などの様々な免疫疾患は、突如として発症するわけではなく、予兆となる症状、さらには、それよりも前の未病期に生体内で変化が起こり、その変化が徐々に積み重なることで症状として現れ、発症します。この発症前に起こる変化を‘未病状態’といいますが、これまで、未病状態は、症状として表に現れてこないことから研究の対象とならず、どのような変化が起こっているのか理解されていません。多くの疾患研究は、症状が出てくる理由を理解しようと試み、症状を抑えるための治療標的を見つけ出し、創薬へとつなげることを目指しています。発症した疾患をいかに治療するかという点は、非常に重要な点でありますが、そもそも発症する前に予防することが出来れば、治療も必要なくなると考えました。私たちは、無謀とも思える‘疾患の予防’を可能にする研究に挑戦しています。様々な疾患を自然発症するモデルマウスを樹立し、免疫学的手法に加え、シングルセル解析、メタボローム解析などのオミックス解析を用いることで、未病状態から疾患へと遷移する過程で起こる変化を捉え、未病状態の包括的な理解を目指します。

代表的な業績

  1. Otaki, N., Motomura, Y., Terooatea, T., Thomas Kelly, S., Mochizuki, M., Takeno, N., Koyasu, S., Tamamitsu, M., Sugihara, F., Kikuta, J., Kitamura, H., Shiraishi, Y., Miyanohara, J., Nagano, Y., Saita, Y., Ogura, T., Asano, K., Minoda, A., Moro, K. Activation of ILC2s through constitutive IFNγ signaling reduction leads to spontaneous pulmonary fibrosis. Nature communications 14, 8120, (2023)
  2. Tanaka, Y., Yamagishi, M., Motomura, Y., Kamatani, T., Oguchi, Y., Suzuki, N., Kiniwa, T., Kabata, H., Irie, M., Tsunoda, T., Miya, F., Goda, K., Ohara, O., Funatsu, T., Fukunaga, K., Moro, K., Uemura, S., Shirasaki, Y. Time-dependent cell-state selection identifies transiently expressed genes regulating ILC2 activation. Communications biology 6, 915, (2023)
  3. Imanishi, T., Unno, M., Yoneda, N., Motomura, Y., Mochizuki, M., Sasaki, T., Pasparakis, M., and Saito, T. RIPK1 blocks T cell senescence mediated by RIPK3 and caspase-8. Science advances 9, eadd6097, (2023)
  4. Kabata, H., Motomura, Y., Kiniwa, T., Kobayashi, T., Moro, K. ILCs and Allergy. Advances in Experimental Medicine and Biology 1365: 75-95, (2022)
  5. Naito M., Nakanishi., Y, Motomura, Y., Takamatsu, H., Koyama, S., Nishide, M., Naito, Y., Izumi, M., Mizuno, Y., Yamaguchi, Y., Nojima, S., Okuzaki, D., Kumanogoh, Semaphorin 6D-expressing mesenchymal cells regulate IL-10 production by ILC2s in the lung. Life Sci Alliance 5(11):e202201486, (2022)
  6. Hikichi, Y., Motomura, Y., Takeuchi, O., Moro, K. Posttranscriptional regulation of ILC2 homeostatic function via tristetraprolin. J Exp Med 218, (2021) 同等責任著者
  7. Momiuchi, Y., Motomura, Y., Suga, E., Mizuno, H., Kikuta, J., Morimoto, A., Mochizuki, M., Otaki, N., Ishii, M., Moro, K. Group 2 innate lymphoid cells in bone marrow regulate osteoclastogenesis in a reciprocal manner via RANKL, GM-CSF and IL-13. International Immunoogyl 33: 573-85, (2021) 同等筆頭著者
  8. Matsuyama, T., Machida, K., Motomura, Y., Takagi, K., Doutake, Y., Tanoue-Hamu, A., Kondo, K., Mizuno, K., Moro, K., and Inoue, H. Long-acting muscarinic antagonist regulates group 2 innate lymphoid cell-dependent airway eosinophilic inflammation. Allergy 76(9):2785-2796, (2021)
  9. Sudo, T., Motomura, Y., Okuzaki, D., Hasegawa, T., Yokota, T., Kikuta, J., Ao, T., Mizuno, H., Matsui, T., Motooka, D., Yoshizawa, R., Nagasawa, T., Kanakura, Y., Moro, K., and Ishii, M. Group 2 innate lymphoid cells support hematopoietic recovery under stress conditions. The Journal of experimental medicine 218, (2021)
  10. Satoh-Takayama, N., Kato, T., Motomura, Y., Kageyama, T., Taguchi-Atarashi, N., Kinoshita-Daitoku, R., Kuroda, E., Di Santo, J.P., Mimuro, H., Moro, K., and Ohno, H. Bacteria-Induced Group 2 Innate Lymphoid Cells in the Stomach Provide Immune Protection through Induction of IgA. Immunity 52, 635-649.e634, (2020)
  11. Miyajima, Y., Ealey, K.N., Motomura, Y., Mochizuki, M., Takeno, N., Yanagita, M., Economides, A.N., Nakayama, M., Koseki, H., and Moro, K. Effects of BMP7 produced by group 2 innate lymphoid cells on adipogenesis. International immunology 32, 407-419, (2020)
  12. Jiang, X., Kumar, A., Motomura, Y., Liu, T., Zhou, Y., Moro, K., Zhang, K.Y.J., and Yang, Q. A Series of Compounds Bearing a Dipyrido-Pyrimidine Scaffold Acting as Novel Human and Insect Pest Chitinase Inhibitors. Journal of Medicinal Chemistry 63, 987-1001, (2020)
  13. Motomura, Y., Kobayashi, T., and Moro, K. The Neuropeptide CGRP Induces Bipolar Syndrome in Group 2 Innate Lymphoid Cells. Immunity 51, 598-600, (2019)
  14. Xu, W., Domingues, R.G., Fonseca-Pereira, D., Ferreira, M., Ribeiro, H., Lopez-Lastra, S., Motomura, Y., Moreira-Santos, L., Bihl, F., Braud, V., Kee, B., Brady, H., Coles, MC., Vosshenrich, C., Kubo, M., Di Santo, JP., and Veiga-Fernandes. NFIL3 orchestrates the emergence of common helper innate lymphoid cell precursors. Cell Reports 10, 2043-2054, (2015)
  15. Motomura, Y., Morita, H., Moro, K., Nakae, S., Artis, D., Endo, T.A., Kuroki, Y., Ohara, O., Koyasu, S., and Kubo, M. Basophil-derived interleukin-4 controls the function of natural helper cells, a member of ILC2s, in lung inflammation. Immunity 40, 758-771, (2014)
  16. Furusawa, J., Moro, K., Motomura, Y., Okamoto, K., Zhu, J., Takayanagi, H., Kubo, M., and Koyasu, S. Critical role of p38 and GATA3 in natural helper cell function. Journal of immunology 191, 1818-1826, (2013)
  17. Kubo, M., and Motomura, Y. Transcriptional regulation of the anti-inflammatory cytokine IL-10 in acquired immune cells. Frontiers in immunology 3, 275, (2012)
  18. Harada, Y., Tanaka, S., Motomura, Y., Harada, Y., Ohno, S., Ohno, S., Yanagi, Y., Inoue, H., and Kubo, M. The 3′ enhancer CNS2 is a critical regulator of interleukin-4-mediated humoral immunity in follicular helper T cells. Immunity 36, 188-200, (2012)
  19. Motomura, Y., Kitamura, H., Hijikata, A., Matsunaga, Y., Matsumoto, K., Inoue, H., Atarashi, K., Hori, S., Watarai, H., Zhu, J., Taniguchi, M., and Kubo, M.The transcription factor E4BP4 regulates the production of IL-10 and IL-13 in CD4+ T cells. Nature Immunology 12, 450-459, (2011)
  20. Tanaka, S., Motomura, Y., Suzuki, Y., Yagi, R., Inoue, H., Miyatake, S., and Kubo, M. The enhancer HS2 critically regulates GATA-3-mediated Il4 transcription in T(H)2 cells. Nature Immunology 12, 77-85, (2011) 同等筆頭著者